「多角的であることが、もっとも優しい」
小児がんという困難に向き合うとき、私たちは一つの側面だけで判断しません。インテグラル理論(統合哲学)に基づき、以下の4つの視点から、子供たちとその家族の「今」を見つめます。
個人の内面(心): 抱えている不安や、その中で芽生える勇気、意味の探求。
個人の外面(身体): 適切な医療、栄養、そして「卓球」などを通じた身体の活性化。
集団の内面(絆): 家族やコミュニティが共有する価値観、支え合いの文化。
集団の外面(社会): 支援制度や経済的な基盤、社会的なつながりの仕組み。
これらの視点が重なり合う場所で初めて、全人的(ホールネス)な支援が可能になると私たちは信じています。
私たちは、人生における困難を単なる「不幸」や「停滞」とは捉えません。それは、私たちの意識がより高い視点へと「進化」するための、痛みを伴う呼びかけ(コール)であると考えています。
一般的に成長とは、知識が増えることや技術が向上することを指します。しかし、私たちはそれ以上に、**「世界をどう捉えるか」という視点そのものの深まり(垂直的な進化)**を重視しています。
受容の段階: 困難に直面し、ありのままの現実を認め、寄り添う段階(共感と受容)。
統合の段階(イエロー・ステージ): 危機を単なる「問題」としてではなく、システム全体が進化するための「好機」として捉え直す段階。積立投資が暴落を利益に変えるように、人生の荒波を成長のエネルギーへと変換します。
存在の段階(ホワイト・ステージ): 何かが「できる・できない」という二元論を超え、存在していることそのものが美しいという、究極の肯定に至る段階。
小児がんという過酷な経験や、逃れられない老い、病。それらは人生の色彩を奪うものではなく、むしろ、それまで見えていなかった「生命の深い階層」を照らし出す光となります。
「なぜ、私だけが?」という問いから、「この経験は、私をどのような存在へと進化させようとしているのか?」という問いへ。
この視点の転換こそが、私たちが提唱する「成長の階層」の核心です。
「世界は常に、より良き方向へ進化している」
私たちは、世界を「固定されたもの」ではなく「絶え間なく進化するもの」として捉えています。この「進化する世界観(イエロー・ステージ)」こそが、困難を希望に変える力となります。
時間分散の知恵: 投資の世界で「ドルコスト平均法」が暴落を利益に変えるように、人生の荒波もまた、長い時間軸で見れば成長のための貴重なエネルギーとなります。
危機の創造性: 進化はしばしば、大きな混乱や危機の直後に起こります。今、直面している痛みは、より深淵な意識へと跳躍するための「バネ」なのです。
私たちは、一人ひとりの人生が、世界の進化という壮大な物語の一部であることを確信しています。
阪大病院で子どもを亡くした私たちは2000年に小児がん支援NPOとしてエスビューローを発足、2009年からは小児がん脳腫瘍全国大会を毎年開催してきました。
その間、先進的な医療の研究者のみならず、心理社会的支援や特別支援教育の専門家、脳科学者や哲学者、さらにはAI(人工知能)の研究者まで幅広くゲスト講師を招き、小児がん経験者とその家族、私たちのような喪失家族が「小児がんという人生の苦難」を乗り越えるために役立つと思われる講座やシンポジウムウムを数多く関係者に提供してきました。
それらの多くは言うなれば「苦悩を乗り越えるヒント」であり、小児がん関係者以外にも大いに参考になるコンテンツであります。
このたび10回を超えるこれまでの小児がん脳腫瘍全国大会のコンテンツの中から、「体を整える」「心を整える」「環境を整える」「人間関係を整える」の各領域でそれぞれ3つずつ主要な項目をピックアップしました(4象限図参照)。医療者は主に「体を整える」の領域から介入します。カウンセラーは「心を整える」の領域から寄り添います。ソーシャルワーカーは「環境」の要因を改善するアドバイスをし、そして患者会のようなセルフヘルプグループは「人間関係」の領域から一人で悩まないで、と励まします。どれも大切です。4つの領域すべてが相互に関係しあっており、どれも欠くことのできない、エッセンシャルなアプローチです。